カメラの歴史 第5話(最終回)|ミラーレスとスマホの時代 ― 誰もがカメラを持ち歩く今

カメラの歴史 第5話 ミラーレスとスマホの時代 カメラの歴史

カメラと写真の歴史をたどる連載も、いよいよ最終回です。第4話では、フィルムからデジタルへと写真の仕組みが変わり、「撮ってすぐ見られる」のが当たり前になるまでを見てきました。第5話では、一眼レフから鏡をなくした「ミラーレス」の登場と、誰もがポケットにカメラを持ち歩く「スマホの時代」をたどり、今のカメラがどこに立っているのかを考えます。

カメラの歴史 第5話の年表

一眼レフの「鏡」は何のためにあったのか

第3話で見たように、一眼レフはレンズを通った光を中の鏡(ミラー)で上に曲げ、ペンタプリズムを通してファインダーに送るカメラです。撮影するのと同じ像を、目で直接のぞけるのが最大の長所でした。シャッターを切る瞬間だけ鏡がはね上がり、光がフィルムやセンサーに届きます。

この仕組みはデジタルの時代になっても受け継がれ、デジタル一眼レフは長くレンズ交換式カメラの主役でした。ただ、鏡がはね上がるための空間や、ペンタプリズムを収める出っ張りが必要なため、どうしても本体が大きく重くなります。デジタルカメラでは、センサーが受けた映像をそのまま画面に映せます。それなら、鏡はなくてもよいのではないか。そんな発想から生まれたのがミラーレスカメラです。

2008年、世界初のミラーレス一眼:LUMIX G1

レンズ交換式のミラーレスカメラの最初の機種とされているのが、パナソニック(当時は松下電器産業)が2008年10月31日に発売した「LUMIX DMC-G1」です。オリンパスとパナソニックが中心になって作った新しい規格「マイクロフォーサーズ」に対応した、最初のカメラでもありました。

鏡がない代わりに、センサーがとらえた映像を、のぞき窓の中の小さな画面「電子ビューファインダー(EVF)」や背面の液晶に映します。有効画素数は約1,210万画素で、本体の重さは約385g。一眼レフと同じようにレンズを交換できながら、ひと回り小さく軽いカメラが誕生しました。

小さくおしゃれなカメラ:オリンパス PEN E-P1

翌2009年7月には、オリンパスがマイクロフォーサーズ規格の「PEN E-P1」を発売します。「ペン」は、1959年に登場した同社の小型フィルムカメラの名前です。その名前と、手のひらに収まるクラシックなデザインを受け継いだE-P1は話題を呼び、発売直後の販売ランキングでも上位に入りました。

「一眼レフは大きくて、いかにも本格的すぎる」と感じていた人にとって、小さくおしゃれなミラーレスは、レンズ交換式カメラを始めるきっかけになりました。カメラの楽しみ方を広げたという意味でも、ミラーレスの登場は大きな出来事でした。

各社の参入と、富士フイルムのXシリーズ

2010年代に入ると、ほかのメーカーも次々とミラーレスに参入します。富士フイルムは2012年2月、新しい「Xマウント」を採用した同社初のレンズ交換式カメラ「X-Pro1」を発売しました。ダイヤルを回して設定を変える昔ながらの操作感と、フィルムメーカーならではの色づくりが特長です。

このXシリーズの流れは、2022年11月に発売された「X-T5」(有効約4,020万画素)などへと続いています。当ブログの運営者の愛機もX-T5です。フィルムの時代から写真に向き合ってきた富士フイルムが、デジタルの時代に「撮る楽しさ」を大切にしたカメラを作り続けているのは、第4話で見たフィルムからデジタルへの物語の続きとも言えるでしょう。

フルサイズもミラーレスへ:ソニー α7

初期のミラーレスは、一眼レフよりも小さなセンサーを使うものが中心でした。この流れを大きく変えたのが、ソニーが2013年11月15日に発売した「α7」と「α7R」です。オートフォーカスを備えたレンズ交換式のミラーレスとして、初めて35mmフルサイズのセンサーを積んだカメラでした。有効画素数は、α7が約2,430万画素、α7Rが約3,640万画素です。

そして2018年、一眼レフの二大メーカーも動きます。8月にニコンが新しい「Zマウント」の「Z 7」「Z 6」を、9月にキヤノンが新しい「RFマウント」の「EOS R」を発表しました。どちらも、それまでの一眼レフを土台にしない、まったく新しく設計したフルサイズのミラーレスです。これをきっかけに、レンズ交換式カメラの主役は、はっきりとミラーレスへ移っていきます。

ミラーレスが主役になった理由

登場したばかりのころのミラーレスは、電子ビューファインダーの映像が粗い、表示が遅れる、ピント合わせが遅いといった弱点を抱えていました。それでも年々改良が進み、今では一眼レフにない長所が目立つようになっています。

  • 撮る前に仕上がりが見える:明るさや色の設定を変えると、ファインダーの映像にそのまま反映されます。撮ってから「暗すぎた」と気づく失敗が減りました。
  • ピント合わせが賢くなった:センサーそのものでピントを測る仕組みが進化し、人や動物の瞳を見つけて追いかける機能も広まりました。
  • 小さく、静かに撮れる:鏡が動かないぶん本体を小さくでき、電子シャッターを使えば音を立てずに撮影できます。
  • 動画にも強い:写真と同じセンサーとピント合わせの仕組みで、動画もきれいに撮れます。

カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計では、2019年に出荷金額でミラーレスが一眼レフを上回りました。2023年の出荷台数は、ミラーレスが約483万台、一眼レフが約117万台と、差は大きく広がっています。ミラーレスの選び方は、当ブログの初心者向けミラーレスの選び方と比較でくわしく紹介しています。

スマホが「いちばん身近なカメラ」になった

ミラーレスが進化していたのと同じころ、写真の世界にもうひとつの大きな波が押し寄せていました。スマートフォンです。2007年、アメリカでアップルの初代iPhoneが発売されました。カメラは約200万画素で、ピント合わせの機能もない、ごくシンプルなものでした。日本では2008年7月11日に「iPhone 3G」がソフトバンクから発売されます。

第4話で見た「写メール」は、写真を「撮って誰かに送るもの」に変えました。スマホはそれをさらに推し進めます。2010年10月には、写真を共有するアプリ「Instagram」が始まりました。撮った写真をその場で加工し、世界中の人に見てもらう。写真は、記念に残すものから、毎日の出来事を伝えるコミュニケーションの手段になっていきます。

スマホのカメラ自体も大きく進化しました。広角や望遠など複数のカメラを積み、何枚もの画像をコンピューターで合成して、暗い場所でも明るく撮ったり、背景を一眼カメラのようにぼかしたりできるようになっています。小さなセンサーの弱点を、計算の力で補う考え方です。

数字で見るカメラ市場の変化

スマホの広がりは、カメラの売れ方を大きく変えました。第4話で紹介したように、2010年のデジタルカメラの出荷台数は1億2000万台を超えていました。それが2023年には約772万台と、およそ15分の1になっています。特に大きく減ったのが、スマホと役割が重なる手軽なコンパクトデジカメです。

一方で、2023年の出荷金額は7,000億円を超えています。台数は減っても、スマホでは撮れない写真を撮るための、性能の高いミラーレスやレンズを選ぶ人が中心になってきたことがわかります。カメラは「誰もが1台持つ家電」から、「撮りたいものがある人のための道具」へと立ち位置を変えたのです。

それでもカメラが選ばれる理由

スマホでこれだけきれいに撮れるのに、なぜカメラを選ぶ人がいるのでしょうか。いちばん大きな理由は、センサーとレンズの大きさです。大きなセンサーは光をたくさん受け止められるため、暗い場所や明るさの差が大きい場面でも、自然な階調で写せます。

運営者の好きな被写体である動物園の動物や風景も、その差が出やすい場面です。動物園では、動物は柵やガラスの向こうにいて、思ったより遠くにいます。動く動物の表情を大きく写すには、望遠レンズと、瞳を追いかけるピント合わせが頼りになります。風景では、空の明るさと木々の影を一緒に写すときに、大きなセンサーの余裕が生きてきます。スマホとカメラの違いについては、コンデジとミラーレス、どっちを選ぶ?でも整理しています。

もうひとつの理由は、「撮る楽しさ」です。ファインダーをのぞき、ダイヤルを回し、シャッターを切る。その手ごたえを楽しみたいという人は少なくありません。カメラは、写真を撮るための道具であると同時に、撮る時間そのものを楽しむための道具にもなっています。

連載のまとめ:「光を残したい」という願いの続き

全5回の連載で、カメラと写真の長い歴史をたどってきました。

  1. 第1話:暗い部屋に映る像から、1839年の写真の誕生まで
  2. 第2話:「ボタンを押すだけ」のコダックと、小さなライカ。写真が誰でも楽しめるものに
  3. 第3話:日本のカメラが世界へ。一眼レフの進化とオートフォーカス
  4. 第4話:フィルムからデジタルへ。「撮ってすぐ見られる」時代の始まり
  5. 第5話(この記事):ミラーレスとスマホ。誰もがカメラを持ち歩く今

形や仕組みは大きく変わっても、目の前の景色や大切な人の姿を残したいという願いは、昔から変わっていません。暗い部屋の壁に映った像を眺めていた時代から、ポケットのスマホで撮った写真を世界中に届けられる今まで。カメラの歴史は、その願いをかなえるための工夫の積み重ねでした。次にシャッターを切るとき、その長い歴史を少しだけ思い出してもらえたらうれしいです。


参考にした資料

  • パナソニック「LUMIX G 10年の技術進化と“S”の幕開け」、DMC-G1の発表資料(2008年)
  • ソニー「α7」シリーズの発表資料(2013年)、ニコン「Z 7」「Z 6」・キヤノン「EOS R」の発表に関する報道(2018年)
  • オリンパス「PEN E-P1」、富士フイルム「X-Pro1」「X-T5」の発売に関する報道
  • カメラ映像機器工業会(CIPA)の出荷統計(2010年・2019年・2023年)
  • ソフトバンク「iPhone 3G」の発売に関する発表(2008年)、Wikipedia(英語版)「Instagram」

※「世界初」などの評価には、メーカーが条件付きで示しているものがあります。この記事では、メーカーの公式資料や上記の資料で一般的とされている内容を採用しています(2026年10月時点)。

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